6月11日に、アメリカでの「暴力の悪循環を断ち切る」という記事にhatehate2004さんから、質問コメントを頂きました。
頂いた質問は大変に興味深く、「若者の間に文化への関心を高め責任感を育てる」というミッションと、それを実現するための「具体策」という問には、まさに 僕が米国カリフォルニア州政府関係機関を通じて行ってきた事が、回答になります。
本来ならもうひとつのブログで言及しているこのプログラムの全体像を紹介すればよりいいのでしょうが、まだ全部書いていないし、具体的にとあるので、このブログでは「具体的」な部分に焦点を当てます。
hatehate2004さんのご質問に答えるために、僕は、「教育」と「コミュニティ」を軸にして書きます。
なぜ、教育とコミュニティなのかは、文化への関心を高め責任感を育てる、というミッションは、「コミュニティ」の「担い手」である「個人」の形成過程を見ることから始まり、個人は、あらかじめ前提として「誰でも同じ」と設定されたディフォルトの「所与」ではなく、さまざまな要因によって、若者の場合「教育」を通じて「形成」される「変数」、つまり「自立した個人の形成」を行うことで達成されると考えるからです。
また最後にNPOがいかに係わっていけるか、私案ですが書いてみます。
ミッション:
若者の間に文化への関心を高め責任感を育てること
ミッション達成のための具体策(米国カリフォルニア州LA地区)
①インセンティブディヴァイドがもたらす階層化意識改革 (認識改革)
②階層化に応じた効果的なロールモデルの役割導入 (自己実現)
③教育を通じてのエンタイトルメントの取得 (基礎教育)
カタカナ用語ばかりで読みにくいとは思いますが、まだ日本で一般的な意味として定着していないので訳語がありません。随時どういう事かは、書いていきますのでよろしくお願い致します。
また、今から書こうとすることが、伝統的に日本で良しとされていることに、かなり直接的に「批判的」になるので、ある種の「反発」あるいは、「不快感」を伴うとは思いますが、あくまでアメリカでの対応策(具体策)という事でご理解をお願いしたいと思います。
それでは、まず、アメリカLA地区で、どの程度「若者の間で文化への関心が低く責任感が育っていない」かという現状を書きます。
現状:
米国カリフォルニア州ロス地区では、近年3つの問題が教育関係者のみならず地域住民の頭を悩ませています。
①ロス地区における少年犯罪率の増加
②K12(アメリカは高校までが義務教育)での生徒の中退率退学率の増加
③基礎学力の著しい低下
です。これらは一つ一つ解決できるような単純なものではなく、3つが複雑に絡んでいることもあり、また州政府の予算カットが著しい現在、ほとんど「お手上げ状態」になっています。
①少年犯罪率の増加は、特に「カラーギャング」(日本にもいつのまにか同じようなのが現れましたが)といわれる武装ギャング、つまり銃を持ったギャング集団同士の暴力行為、盗難。また、ギャングでも、移民ギャングが引き起こす、一種のアイデンティティ抗争。LAではメキシコ系VSエルサルバドール系。
②生徒の中退率、退学率はLAでは特に高く、半数近くつまり50%に上ります。先日「プロジェクトX」で淀川工業高校の退学率が、というので誇大表現で問題になっていましたが、LAの場合、現実は非常に厳しい。なおLAと書いているのは「LAUSD」、LA公立学区という意味です。
この中退、退学には刑務所に送られたため、妊娠、などがありますが、最近は「Year Round」と「教員の質」も原因として取上げられています。
「Year Round」というのは、本来2学期制なのですが、あまりにも生徒数が多く、一クラス80人になってしまい、教師が対応できないので、学期を2ヵ月半学校、2ヶ月休み、また2ヵ月半学校、2ヶ月休み、そして2ヶ月半学校というローテーションにしています。
一目瞭然ですが、夏休みに匹敵する長さの休みが年に2回以上あります。
さて「教員の質」ですが、これは昨今の予算カットのため「給料」が当面上がらなくなった、そして、あまりの生徒の多さに対応できないなどの理由から、質が悪くなっています。
③基礎学力の低下は、本当に目を覆いたくなるばかりです。僕自身は、大学の教員として、そのプログラムで数学と政治歴史を担当していましたが、まず「掛け算」はできません。ですから「割り算」もできません。計算機がないと何も出来ません。
英語が「スパングリッシュ」(英語とスペイン語が混ざったヒスパニックコミュニティでしか通用しない英語)の氾濫で「アカデミックイングリッシュ」にならない。エッセイがかけない。文法が出来ない。
まあ、これに関しては挙げていけばきりがないのでやめますが、日本の大学生で分数できない生徒もいる、という事以上に悲惨な状態という事です。
全体としてみれば、学生として集中できるコミュニティ作りが行われておらず、もちろんLA地区というのは貧困地区ですから、この辺りにある学校の30-40%は生活保護を受けています。また、移民地区でもあるので親が英語を話すことが出来ない。また、貧困地区特有の文化慣習によって、学校に対する「期待」はほとんどなく、教育を受ける意味がなかなか伝わっていません。
それにもまして、「Year Round」という、生徒のモチベーションを高めるというよりも、中だるみを推奨しているような学期制度のために、生徒が前学期勉強したことを覚えていない。つまり、次の授業で応用活用できない。
ですから、単純化して書くと、このような地区での文化とは、ビバリーヒルズやパサディナといった「いわゆる」日本人がブラウン管の中で見る「アメリカの文化」とは、対極にあり、いわゆる「アンダーグラウンド文化」と言ってよく、ある意味、このような貧困文化への関心は高いのですが、自分達が属するところだけでなく、いわゆる社会全体に対する「責任感」を育てようという気運はあるが、なかなか結果としてでてこない。
つまり、今のLA地区は「将来の事を考えるよりも今の生活を楽しみたい」と思い「あくせく勉強しても、将来の生活に大した変わりはない」と考える10代があまりにも多く、そのため中退退学を通じて「降りる」ことを自己肯定できる子供達を受け入れるコミュニティが惰性的に存在しているという事です。
「自分の興味のある事」だけに関心を持ち、「人に迷惑をかけていなければ、別に何をやってもいいじゃん。」
日本も同じですね。
次回に続く。